絶対零度の微笑で、アーチャーを黙らせる。
って言っても効かないんだけど。
「どんな因縁があるのかは知らないけれど、衛宮君はあなたを知らないんだから、いい迷惑よ」
この際だからはっきりさせておく。
どこで知ったのかは知らないけれど、そんなことは私の知ったこっちゃ無い。
「因縁などという生易しいものではない。今すぐに消し去りたいほどの…憎悪だよ」
声は穏やかそのもの。
だけど内容は…感情に富み過ぎていて背筋が凍る。
「何したの、衛宮君」
「気に入らない奴だなーとかは思ったけど…何もした覚えは無い」
屈しまいとアーチャーの視線に耐えるように表情を硬くしている衛宮君。
ここにいるままでは誰かに見られる危険がある。
「とにかく、ここじゃまずいわ。家に行きましょ衛宮君」
一触即発の状態で何か起こされても防ぎきれない。
だけど遠坂の家なら多少は魔術耐性もあるし、隠すことも出来るだろう。
何よりもアーチャーを外に出したままは良くない。
私が歩き出すと衛宮君は慌てて着いてきた。
アーチャーとすれ違う際になんとなく火花が散ったようだけど、それ以上のことも無くすれ違ったようだ。
アーチャーは幽体になって着いて来る事にしたらしく、私はそれを魔力の消費が減った事で知った。
それにしても頭が痛いことには変わりない。
わざわざ姿を現した理由を後で問い詰めないと。
長めの坂道を登って、見えてくる家の屋根。
「もしかしなくてもアレが遠坂の家か?」
「そうよ。ちょっと古いけど頑丈だから安心してね」
「それは心配してないって。家も似たようなもんだし」
衛宮君の家は武家屋敷のようだと聞いたことがある。
これも桜からの情報。
時々桜とはこっそり話したりしている。
姿は無いけれど、ぴりぴりした空気が漂っているのを感じるということは、アーチャーは律儀に歩いて着いて来ているのだろうか?
家の玄関の前で解除の呪文を唱える。
それを聞いて初めて、衛宮君が私のもう一つの顔に気づいたようだ。
「遠坂…」
「そうよ。あなただって、一応はそうでしょう?」
振り向くことなく、私は玄関の扉を開けると衛宮君に先に入るように促した。
居間に案内して、椅子に座らせる。
家に着いた時点でアーチャーは姿を現して我が物顔で家を闊歩している。
おそらくは紅茶を淹れるため。
ここ最近の日課だし。
さて、この二人のことも家事のこともどうしたものか…
アーチャーが紅茶を淹れて戻ってくるまで、私も衛宮君も無言で椅子に座っているのだった。
続く