「なんで…そこまで気にするの?アーチャーのせいではないわよ」
近すぎる顔に赤面しつつ、顔を逸らす。
椅子に座っていたから、捕まれてしまったら逃げられない。
「オレが、凛を好きだと言ったら?」
真剣な顔でそんなことを言うのはずるいと思う。
「冗談にしてはちょっと悪趣味ね」
いつも通りに振舞おうと、嫌味を言ってみる。
でもアーチャーは動じない。
「話を逸らそうとするな、凛。君が…あんな反応をしたら、言わないでいられなくなる」
「あ、あんな反応って何よ?あなたは真顔で冗談言うんだから、信じたりしないわよ」
それでも赤面している顔は真っ直ぐにアーチャーを見られないまま。
「オレに好きな相手がいると肯定したら、泣いたことだ。オレの言葉にショックを受けたのだとしたら、それは…」
アーチャーは、言うことを迷ったのか言葉を切った。
それはほんの数秒の沈黙。
「オレの勘違いなら笑ってくれていい。オレは…凛の反応はオレを好きだから じゃないかと、思ったんだ」
全く知らない誰かの言葉を聞いているように、私は感じていた。
アーチャーのいつもの口調じゃない。
その話し方はどこかで…
それでも、その言葉が本当だったならと思ってしまった。
「アーチャー、もう、いい」
願いは一つだけ。
側にいてくれることだけ。
そんなことを言われたら、もっと願ってしまいそう。
「凛?」
「大丈夫よ、本当のことを言ったってもう泣かないわ。だから、私を好きだなんて言わないで」
これ以上言われたら、私は自分を保てなくなってしまう。
聖杯を手に入れても願うことのない願いを、願ってしまう。
「過保護な、保護者のままでいて?私のサーヴァントでいて欲しいのよ…」
笑顔を、正面から造って見せた。
私を慰めるためにそう言ったのだとしても、嬉しかったから。
その言葉だけで…十分だから。
「分かった、凛。もう何も言うまい」
アーチャーは困ったように笑って、頷く。
「一つだけ、いいかな」
アーチャーは思い出したように、真顔に戻る。
「何?」
なんでもないように、短く聞く。
「君の想い人は衛宮士郎ではないだろうな?」
私の発言に、アーチャーは自分が私の想い人だという考えは止めたらしく、心底嫌そうに尋ねてきた。
その様子がいつも通りのアーチャーだと思って、思わず笑ってしまった。
「何を笑う、凛。事と次第によっては小一時間問い詰めてもいいが?」
「違うのよ、ただあまりにも嫌そうな反応をするから…それに、私が好きなのは衛宮君じゃないわ」
憧れはあったと思う。
でも今は、誰よりもあなたが大事。
「そうか、それを聞いて安心した」
アーチャーは心底安心した表情で、目を細めて笑った。
「たとえ嘘でも、好きだって言ってくれて嬉しかったわよ、アーチャー」
「人の一世一代の告白を嘘だと断言するかね?」
「どうせ、マスターとしてとか子供としてとかでしょう?過保護な保護者さん?」
特別な感情じゃなくてもいい。
「君がそういう風に取るのならそれでも構わないさ。だが」

続く