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ー彼女はきっと、呼吸をするのと同じくらい自然に役を演じているんだろうー
彼女を見て思ったのはただ、それだけ。
それだけだけど、声優を目指す僕には十分だった。
彼女の告白を聞くまでは。

手のひらの宇宙

高校二年の秋。
僕が所属する放送委員会は、学園祭でアニメ研究会と合同で短編アニメを上映する事になっていた。
アニメ研究会が作ったアニメに音を付ける。
何故かついでに声優もどきな真似もして欲しいと頼まれた。
けれど、残念ながら今期の放送委員は男子ばかりで女子がいなかった。
そこで苦肉の策として、演技の上手な女子を演劇部から借りてくるという方法を取った。
演劇部は総出の劇を控えていて人手を割くことはできないのだと断ってきたけれど、演劇部ではなく上手な人間を紹介するからと言われて紹介してもらったのが昨日。
紹介してもらったのが彼女である事に驚いた。
演劇部の去年の劇に出ていたヒロイン役の一年生。
今は二年で同学年に在籍している彼女は、去年の劇の後に放送委員会のインタビューを受けていた。
演技の上手さに、僕はてっきり演劇部に在籍しているのだと思っていたけど。
「久しぶりだね、覚えてる?去年の学園祭後のインタビューしたの僕なんだけど」
「うん、覚えているよ。放送委員会にしか入らないって有名だもの」
半年ずつの委員会に、僕は連続して放送委員会を選んでいた。
声優を目指すなら、そういう委員会の方がいいと思ったからだった。
彼女…佐倉ことりはそういうと笑ってそうだね、と頷いた。
「先に見えるものがあるならそれもいいかもね」
どこか寂しそうな呟き。
「佐倉は…女優とか目指してるんじゃないのか?」
自分の中ではそうだと思っていたことを聞いてみる。
今だってこれだけの演技が出来るんだから、演技の勉強をして演技を磨けば実力派として女優になれるんじゃないだろうか。
でも、彼女は静かに首を横に振ると女優にはならないと呟いた。
「なんで?演技好きなんだろ?」
「私は…向いてないもの。好きな事と向いてる事は違うでしょう?」
そう言い切った彼女は、僕がよほど間抜けな顔をしていたのか…その理由を話してくれた。
「私ね…物凄い上がり症なの。だから…舞台立って演技した後ね、気絶しちゃうの」
困惑しているかのような、自嘲するかのような…笑顔。
好きなのに出来ない、そんな感じが伝わってきた。
「そういえば、今日は何をしにきたの?私に話があるって聞いたんだけど」
「ああ、そうだった。実はさ、アニメ研究会と合同で短編アニメ作るんだけど、そのキャラの声、やってもらえないかな」
授業終わりの放課後。
演劇部の部長からの伝言で教室に残っていた彼女に話しかけて30分。
ようやく本題に入った。
「え…でも」
上がり症だから出来ないと言いたげな表情。
「大丈夫、みんなの前で直に演じるわけじゃないから。放送室で録音して流すから、大丈夫だよ」
僕はどうしようかと答えあぐねている彼女に、これからの流れを説明する。
決して人前では演じないから…そう強調して説得する。
「ね、秋川君もやるの?声優、目指してるんでしょう?」
「やるよ、放送委員だしね。ただ、放送委員男ばっかで女子がいないから断られちゃうと男の声で女の子のキャラもやらないといけなくなるんだけど」
「そうなの?」
僕の言葉に楽しそうに笑う佐倉。
「そっか。じゃあ、人助けだと思ってやってみようかな」
「ありがとう、佐倉。助かるよ」
彼女との交渉は無事成立。
あとはアニメ研究会から台本が届くのを待つだけだ。

続く