1.灯台、上も暗し。

自分が他人とはちょっと感覚がずれているのは自覚していた。
でも、よりによってその人にそれを自覚させられるのは…苦しかった。
昼休みの教室で、部活の先輩に手招きで呼ばれた。
部活での変更とかあったんだろうかと、ついていく。
それ以外の理由なんて、思いつかなかった。
だから先輩が人通りの少ない場所へと移動していても、なんとも思わなかった。
「好きなんだけど」
その言葉を聞いて、私はとんでもない勘違いをした。
「誰が、ですか?」
物凄く、間の抜けた返事。
言葉に対する返事じゃないけど、そのとき私はそう思ったのだ。
先輩が私を好きになることは無いと思っていたから。
先輩とは中学からの知り合い。
高校も地元の高校で、同じ。
知り合ったときには彼女がいて、
その彼女こそ私の尊敬する先輩だったのだから、好きになる隙間は無かった。
好きは好き。ただ、種類が違うだけ。
「俺が、お前を」
人のいい先輩はちゃんと説明を付け足してくれた。
その言葉を聞いて私は慌てふためいた。
部活の誰かから伝言を頼まれたとか、そういうものだと思ったのだ。
私と先輩は同じ中学出身と言うことで部の中でも仲が良い方だったから。
でも本当は仲が良いと思っていたのは私だけだったのだ。
一体どこから?
私には疑問だけが浮かんでいた。
告白に対する答えよりも、どうして?という疑問ばかりが先に立つ。
「付き合って欲しい」
付き合う?
彼女は…どうしたの?
浮かんでくる疑問。
でも、何一つ言葉には出来なかった。
「…好きな人がいるのでごめんなさい」
結局出てきたのは、それだけ。
好きな人なんていない。
いるわけが無い。
いつだって、先輩は私の一番近くに陣取っていたのだ。
その状態で私に近づいてこれるつわものなんていなかった。
「そっか、わかった」
潔い返事。
もともと潔い人だけれど、言葉もやはり潔かった。
ぽんと頭に置かれる手が、そのまま撫でる。
小さくて守ってあげたいと思わせてしまう私の外見の関係で、頭を撫でられるのには慣れていた。
だから、気がつかなかった。
距離感がゼロなら、特別な感情があるんじゃないかと勘違いされてもおかしくは無い。
愛玩動物張りに撫でられなれていた私は気がつかなかったのだ。
そんな単純なものだと言うことに。
先輩と別れて教室に戻る。
いつも通りの先輩の態度に、どうしていいか分からない。
何も知らないままには戻れない。
この際授業は聞き流して考えに没頭することにした。

続く