「何で辞めた?」
邪魔の入らない場所まで移動して、先輩は開口一番にそう聞いてきた。
「女子一人では限界だと思ったからですよ」
詭弁である。
接点を絶つためとは言わない。
「…じゃあ、俺のせいじゃないのか?」
潔い人だとは思っていたけれどここまでとは。
ストレートな言葉に驚いていると、勘違いして納得したらしく、違うならいいと呟いた。
「…一つ聞いてもいいですか?」
本当なら、すぐにでもこの場を去るべきだろう。
だけれど、持ち続けていた疑問が頭を占領していて、その考えは浮かばなかった。
疑問を解消することだけしか頭にはなかった。
「何?」
「…言いたくなかったら言わなくていいんですけど…」
「わかった。でも聞かないと分からないし」
私には直接関係ないはずのこと。
けしてよい記憶ではないであろうことを聞く。
少し、躊躇いがあった。
「……」
本当に聞いてしまっていいのか悩む。
「聞きたいことって、彼女のこと…?」
疑問を口に出来ないでいると、先輩は言いたい事が分かっていたかのように私に聞いた。
「…はい。久保先輩のこと、気になって…」
私の尊敬する久保和音先輩。
高校が違うから会えないけど、先輩はどうしているのだろうか。
このことを知っているのだろうか?
「彼女なら、別に彼氏がいるよ」
寝耳に水とはこのことだろうか。
急な展開に、私は追いつけなかった。
「やっぱり知らなかったんだね。彼女とは結構前に自然消滅してたんだよ」
…何で?それが正直な気持ちだった。
「もう一つ付け足すなら、彼女はこのことは知らないよ。言ってないし、誰も話していないはずだから」
それでも。
それでも私はこの人を好きになることは出来ない。
「彼女と付き合ってる時から好きだったわけじゃないよ。妹みたいに思ってたし、俺も彼女も」
その言葉は、私の心を見透かしているかのような言葉だった。
私が断る理由をなくすような…そんな、言葉。
「それでも、駄目?」
初めから、全部見越してたのだろうか?
「好きな人がいるって言ってたから、長期戦で行こうかと思ったのに退部してるし」
私が話さない分まで、先輩が話す。
疑問は無くなった。
けど、頷くことはできない。
好きな人なんていないけど。
「じゃあ、俺のことは好き?」
先輩の言葉に、ようやく気がついた。
「私、間違えてたみたいです」
それは、懺悔をする心境だった。
「先輩の言った事、全部あたりです。久保先輩のことがあったから、それも断った理由の一つです。けど」
一番重要なこと。それは私が先輩を好きなのかということ。
きっと私は考えないようにしていたんだ。

続く